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豊の部屋レポート 第8回|ゲスト 服飾デザイナー/仕立士

ゲスト 服飾デザイナー/仕立士 高部葉子氏
「1枚の布から端切れを出さずシャツを作る仕立士」
2018年4月7日開催

 

トークの概要

高部さんの“一枚の布から
端切れを全く出さずに造形するシャツ”が
国際的に有名なデザイン賞に輝きました。
どうしてそういうシャツを作るようになったのか、
動機やきっかけの話から、
そもそも服はどのように作られていくのか、
現代の洋服にまつわる社会問題、
また服の歴史などを語ってもらいました。

小さいころから自分でミシンを使って
洋服を作っていたほど手先が器用だったり、
服の構造を探るのが好きだったのが、
仕事の原点となっていたようです。

 

洋服の構造・パターンについて

 

シャツを作る場合、 Mサイズはだいたい
110×150センチの木綿の長方形の布からつくる。
木綿1メートル市販のものは
1000円弱から2000円くらい。
ほとんどの洋服は布を直線でなく、
身体の線に合わせたカーブを使い
型紙を作り裁断するから必ず端切れがでる。
シンプルなTシャツのボディは4つのパターンと
首回りのテープからできている。
シャツは約20ぐらいのパターンからなる。
パターンの数は、デザイン次第で変わる。

 

端切れについて

 

裁断時に一着分の布のうち2割前後は
端切れになると言われている。
大量生産(工業的に作る)の場合、
ひとつの服のパターンを一度に大量に機械が断裁し、
大量に端切れが出る。
そこに何かポジティヴな考えがない限り廃棄処分される。
服の生産工場のあるアジアの第三世界では
ゴミ再生の意識や技術が未開である状況といえる。
現在、ファストファッションの台頭で
より服がカジュアルに雑貨化し、プチプライスで
気軽に買える状況。個人の服の所有量が
この20~30年で劇的に増えた。
つまり、ばく大な量の服が生産されると同時に
端切れがゴミになっている。
素材によっては再利用されているが
残念ながらほんの一部と言える。
端切れの処分については、
もちろん第一に環境問題も引き起こすが、
私はそもそも服の生産サイクルの中に
アパレル産業の解決すべき課題が
複雑に絡み合っていると考えている。

 

端切れの出ないシャツを作るきっかけ

 

前回のゲスト西村氏主催の銀座ドキュメンタリー上映会に
たまたま参加し、映画「トゥルーコスト」を観たのが
考えるきっかけとなる。

「トゥルーコスト」公式サイト
https://unitedpeople.jp/truecost/

映画「トゥルーコスト」はアパレル産業の
構造的な問題をあぶりだすドキュメンタリー映画。
映画の中で、端切れがいくつもの巨大な山になって
野ざらしになっている映像があり、
アパレルに関わる人間として衝撃をおぼえた。

ちょうどその頃、プロダクトデザイナーの花澤啓太さんより
オリジナルシャツ開発の依頼が入り、
打ち合わせの中で映画の話をしたことがきっかけで
「端切れのでないシャツ」をデザインすることになった。
アパレル製品は概ね60%前後の下代で小売店に出荷される。
大量生産すれば経費は安くなるだろう。
しかしそこで出た廃棄物を処分するには別のコストがかかる。
安く服が買える裏側で、大きな問題が起きている。
社会問題としてその側面がクローズアップされ
話ができるようになってきた。

 

服の歴史を振り返る

 

恐らく我々のおじいさん、おばあさんの時代は、
オーダーや自前で服を作っていたし、
布が貴重なものという意識はあったと思う。
端切れができるだけ出ないように
効率よく仕立てていたはず。
端切れが出たとしても二次利用していた!
日本の着物は合理的にできていて、
カーブがなく効率的に配置されたパターン無駄がでない。
着物の時代、庶民は生涯に着物を何着も持てなかったから、
当て布して繕って大事に着ていた。
素材は木綿と麻の布が一般的で
絹地は身分の高い一部の人が着ていた。
世界的な服の起源というと、皆さん布の真ん中に
頭が通る穴を開けただけの貫頭衣を想像すると思う。
時代は進みローマ時代にはたっぷりの布を
体に巻きつけたドレープに美しさを追求し、

そこにデザインが入ってきた。
国家ができ人的階層ができると
デザインは権威を示すものでもあった。
もともと布は縦横真っ直ぐなロール状に
織られるのだから直線に切ったものを
組み合わせて使えば無駄がでない。
時代と共にデザインが発展して、
それによって集団の属性を表したり、
個々の様々な嗜好を反映するようになって
服の形が多様化し、そのためのパターンが作られて、
材料である織物も進化した。
少しづつ端切れが産出されるようになってきた。

 

こだわり

 

計算をして割付けさえできれば、
布から端切れを出さずにさまざまに
個性的な服を作ることは可能だが、
自分がこだわったのは奇をてらわない
普段使いのシャツを作ること。
普通のシャツなら、
日常的に袖を通してもらえると考えた。

 

苦労したこと

 

デザインの観点から形を追求すると同じだけ、
量産の際の断裁作業の効率を考えて
パターンを配置する苦労があった。
割付の際に図らずも出た小さなパーツは
シャツの裏ポケットにした。また販売上のルールがあり
洗濯品質表示やブランドタグもつけねばならない。
それらも布から確保している。
芯地等も含め一枚の布でシャツが完結できるようにした。

 

受賞した“iF design award 2018” について

 

受賞の知らせが1月末か2月初めころにあり、
3月8日ドイツにて授賞式があった。
出席できなかったが。現在ドイツで受賞作品として
展示されている。日本製品で受賞しているのは、
大手メーカーの車やカメラ、電化製品、また建築など。
あらゆる分野の工業デザインが対象。
アパレル製品が受賞するのは前例がないと言われた。
3名1組で世界中から厳選された審査員が
200点ずつ見ていく。そこで選ばれたものがさらに
協議にかけられて厳しい審査で選ばれる。
ちなみに今回のエントリー製品は世界中から約6000点。
実はこの賞について自分もよく知らなかったが、
販売元がエントリーをしてくれていて、
受賞したことを喜び最高の賞だと仰ってくれた。
自分なりに時間をかけて練った製品なので
受賞の理由はぜひ知りたいと思ったが、
ハノーヴァーのレセプションに行けば
審査員の方に教えて貰えたかもしれない。
製品自体は鋭意生産中でこれから発売予定(4月後半)。
今年に入りさらにブラッシュアップを続けて
より着やすく品質の良い製品になったと思う

購入はプロダクトレーベル knotの
公式サイトを見てください。

knotサイト:https://knot.website/products/newpattern.html

布地は静岡・浜松産。
もともと浜松は綿織物の産地。
とても上質な綿織物を織られる世界的にも名の通った
古橋織布さんという織元の生地で、
長く着られる素材を使っている。

 

版権について

 

知的財産については花澤氏と話し合い、
登録をしていない。
型紙を作る人がみれば再現、
もしくは、大きなヒントにはなるかもしれない。
このような考え方を提案したい。
シャツのほかスカートなども端切れを出さずに作っている。
スカートはシャツよりは簡単で、
現在、カルチャースクール等でも教えている。
このプロダクトについて話すことで、
端切れを出さないで服を作ることは
実はシンプルなことだと知ってもらう機会にしたい。

 

高部葉子 プロフィール

静岡市出身。イトデザインアンドクチュール代表。 学校法人静岡理工科大学 静岡デザイン専門学校ファッションデザイン科 講師 1999年より静岡市に注文服のアトリエを構える。 日常服・舞台衣装・ブライダルドレスなど、衣類の仕立のほかにも空間の構成等、布を手掛かりにジャンルを越えて様々な仕事に携わる。 個展等多数。カルチャースクール等の講座ではオリジナルパターンで手軽に作る季節の服を提案している。 プロダクトレーベル knot と共同開発した、一枚の布から端切れを全く出さずに造形するシャツ 「new pattern」で、国際的なプロダクトデザイン賞である iF design award 2018 を受賞。

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